今回は広島県でも「絶滅危惧Ⅱ類」に分類されているという貴重な花「オオヤマレンゲ」をご紹介します。オオヤマレンゲは関東北部以西の本州の、特に標高1,000-2,000 mの山地の林内に自生しており、蓮の花に似た白い花を咲かせます。
広島県ではいくつか自生地がありますが「恐羅漢山」の「オオヤマレンゲ」は特に人気で、開花シーズンには多くの登山客が訪れます。
恐羅漢山は広島県の北西部に位置する西中国山地国定公園内にあります。標高は1,346メートルあり、広島県、島根県両県の最高峰となります。
そして今回お目当ての「オオヤマレンゲ」は恐羅漢山頂から約900メートル南西に位置する「旧羅漢山」に自生しています。
旧羅漢山へのコースですが、距離的にも短く多くの人に踏まれているのがスキー場から山頂へ直登する「立山ルート」です。
その場合「牛小屋高原」に車を置くのがベストでしょう。(牛小屋高原は恐羅漢エコロジーキャンプ場のあるところです)
もう少し恐羅漢を満喫したければ「夏焼峠」から迂回する夏焼ルートもあります。夏焼ルートは西中国山地特有の「ブナ林」を抜ける森林浴が楽しめるルートになっています。
登りの坂道は「夏焼ルート」のほうが若干緩めと思います。
恐羅漢山頂までの道のり
立山ルート | 約1時間20分 |
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夏焼ルート | 約1時間45分 |
※恐羅漢山頂から旧羅漢山頂までは約30分程度です。
今回紹介しているルート
今回はメジャーなルートではありませんが、キャンプ場のある牛小屋高原より下った「二軒小屋駐車場」に車を置き横川川(よこごう)沿いの林道を南下し「獅子が谷入口付近」から旧羅漢山を目指しています。そこから恐羅漢山頂を経由し、夏焼ルートを時計回りに下山するルートとなります。
二軒小屋駐車場からスタート!駐車場からは写真のような舗装された林道がしばらく続きます。
林道沿いにはコアジサイ
ヒメウツギなど、季節の花々が楽しめました。
左手に横川川のせせらぎを聞きながら進んでいきます。
横川はヨコガワではなくヨコゴウと読みます。恐羅漢の東方に砥石川山という山がありますが、これもトイシゴウと読みますので、地元では川を「ゴウ」と呼んでいたのかもしれません。
やがて獅子ヶ谷に出ます。南に行けば十方山、北に行けば旧羅漢山です。
獅子が谷登山口、最初がなかなかの曲者で、急登の上雨の多い時期は足元があまりよくないです。
その急登もやがて緩やかになり登山道右手には広大なブナ林が広がります。
マムシ草を見つけました。
ブナ林は西中国山地の標高1,000メートルより高い所に多く見られるそうで、この地域特有のものらしいです。
苔むした岩
旧羅漢山手前の1,271ピーク。ここから焼杉山に至る道がついているようですが・・・
これが入り口でしょうか、かなり笹が濃いようです。
サラサドウダン、もうほとんど終わっていました。赤い模様がかわいいお花です。最盛期にはこの花をたわわにつけとてもキレイです。
旧羅漢山到着!
オオヤマレンゲは写真のハシゴのかかっている大岩の裏側にあります。向かって右側を巻きます。
ちょっとわかりにくいですが、次の写真の岩に沿って左手に回り込みます。
オオヤマレンゲに会う
ついに見ることができました。白い花はだいぶ落ちているものもありましたが、自生地は岩の周辺に3カ所ほどありました。
オオヤマレンゲは「森の貴婦人」とも呼ばれており、白い大きな花が特徴的です。
花の寿命は短く、4~5日で枯れてしまうということです。しかし、つぼみもまだ多く、次から次へと花をつけているようです。
聞いた話だと、以前は花数も多かったということのようです。今年が裏年だったのかもしれません。
それにしても、次々と見物客がやってこられます。オオヤマレンゲのある所はわりと狭い岩の裏側で、ほどなくして20人ほどの団体が来られるとごった返していました。
普段は静まり返っているこの付近に、こんなにたくさんの方が登ってこられるのは少し嬉しい気もしました。
恐羅漢山頂でランチ!
続いて恐羅漢山頂にたどり着きました。ここでお昼にしようかと思ったのですが、いつもにないほどの混雑ぶり・・・
オオヤマレンゲを求めてこられたご年配の団体、恐羅漢登山を楽しむファミリーさん、十方山縦走と思しきグループなどなど。
あまり場所もありませんでしたので、山頂の片隅でおうどんをいただきました。
食後に少しだけ山並みウォッチング・・十方山方向を向いて。
深入山、くっきりと登山道が見えました。
下山は夏焼ルートからです。写真は牛小屋高原と台ケ原への分岐「早手のキビレ」付近です。
下山時にもいろんな見どころを楽しめた
この辺からはいろいろな昆虫や植物を楽しめました。
毎度おなじみのアザミ。これは麓の平地にも咲いていますが、山中に咲いているものは大き目でしっかり花をつけているものが多いです。
ニガナ、黄色い可憐な花です。キク科の一年草。
作り物のようにも見えるトンボ。
ササユリ。花はユリそのものですが、葉っぱが笹の葉そっくりという珍しいお花。
それからなんといっても外せないのがこのブナ林の美しさ!
森林にこだまする鳥の声や、地上では聞くことのない特徴的なセミの鳴き声が響き渡っています。
スキー場のところまで戻ってきました。黄色い花がたくさん咲いていてびっくり!
この辺り、春先にはスイセンで楽しませてもらいましたが、今回は黄色い花がずっと向こうまで広がっていました。
下山後、ロード歩きをしていて見つけた「ミドリヒョウモン」とても美しいオレンジ色をしています。
以上で「森の貴婦人」とも呼ばれる「オオヤマレンゲ」のご紹介を終えたいと思います。いつもにないくらい多くの登山客でにぎわっていたのを見ると、とても貴重で愛されている花なんだなと思いました。
今回のルートへの思い
旧羅漢山頂で出会ったグループの方からお声がけ頂いたところ、私が二軒小屋駐車場にいたのを覚えておられたそうだ。彼らとは同じコースを登ってきたわけではないので、おそらく立山コースか夏焼峠から、私とは逆向きのコースでおいでたのかもしれない。ちょうどあちらも目的地にされていたであろうオオヤマレンゲのところで再び出会ったということになる。
今回、獅子ケ谷から旧羅漢を目指した理由は、初見と言われる恐羅漢山の山行記録を興味深く読んだことによる。
桑原先生の『西中国山地』の中には、昭和6年8月に登頂を決行された結城次郎氏の山行記録が紹介されているのだ。
氏は、獅子ケ谷近くのサカモリ谷から山頂を目指し、サカモリ谷の3つ隣の死人谷を降りているということだった。ということは「少なくとも獅子ケ谷入口付近から旧羅漢までの間は、ひょっとすると氏の歩いた行程と同じくするところがあるかもしれない」と思ったからであった。
その一文を引用させていただくに
トチ、ブナ、シナ、マキ、カエデ等の巨木が天を蔽うて茂っている。南国的な色彩と形態を具えた優麗なアサギマダラが、数頭樹間から洩れる陽光を浴びながら翩翻として密林中を縫う有様は、突然熱帯原始林にでもいる様な心地がして独り恍惚としてこの自然美に酔わされたのである。
勇敢な前青年は濃厚なブッシュも更に驚く気色もなく押分けて路のない此山の頂上目がけて突進した。
アサギマダラのくだりは、山で出会う美しさへの感激がそのまま凝縮されているかのような描写で、なかなか形容しがたい自然美への魅力が文章で見事に体現されていることが素晴らしい。
昭和6年というと、国設のスキー場開発が行われるまだまだ以前のことだ。当時恐羅漢は全く原生林の様相を呈しており、磁石を頼りに山頂を目指すその行程はさながら未知探訪のようであっただろう。
アサギマダラにはまだ早い時期ではあったが、最後にミドリヒョウモンが見れたのは何かの因果だったのかもしれない。